自作小説【浮気をしたいと婚約者が言うので、全力で止めました】
自作小説【浮気をしたいと婚約者が言うので、全力で止めました】
「頼む。この通りだ・・・浮気をさせてほしい。」
ジャンは腰を九十度近く曲げ、私に向かって頭を下げた。
「ジャン・・・何回も言うけど、そういう問題じゃないの。浮気なんて認められるわけないでしょ!」
ルネルは怒りのあまり思い切り、右足を床に叩きつけた。
ガン!と大きい音が鳴り、ジャンがびくっと体を震わせた。
「ルネル・・・お前のいうことは本当によく分かる・・・だが、俺はそれでも浮気をしたいんだ!!!」
頭を下げた姿勢のまま、ジャンは叫んだ。
これほどの熱意を今までに感じたことのなかったルネルは、一瞬驚き、たじろいだ。
「そ、それでも!浮気なんか許せるわけないでしょう!!!私はあなたの婚約者なのよ!」
「それは問題ない・・・婚約を破棄さえしてくれれば・・・」
「そういうことじゃないでしょ!!!」
再び、床を足で叩きつけた。
バン!!!と先ほどよりも大きな音が鳴り、ルネル自身もびくっと体が震えた。
「だ、第一・・・なんでそんなに浮気がしたいの!?」
「そのことなんだが・・・」
そこまで言うと、ジャンはすっと体を上げ、ルネルの目を見た。
「お前のそういうところが俺はもう限界なんだ・・・」
「そういうところ?」
「さっきから床を足で叩いているだろ!それが俺は嫌で嫌でたまらないんだ。」
「はぁ?」
「最初はそんなことしなかったろ?なのに最近は・・・どれだけ床に当たれば気が済むんだ!?」
ルネルはここ最近の自分の生活を振り返った。
確かに強い怒りを感じた時、床を足で叩いている気がする・・・
「じゃあ、それ直すわよ!もう床に当たらない!これでいいでしょ!」
「そんな言葉信用できると思っているのか!?」
ジャンの声が次第に大きくなっていく。
ルネルは自分が押し負けているのをはっきりと感じた。
「ならどうしろって言うの!?」
「だから浮気をさせろと・・・別れてくれって言っているだろ!?」
「くっ・・・それは・・・」
ルネルは言葉に詰まった。
別れる原因が自分にある以上、何も言い返せなかったのだ。
しばらくの沈黙の後、ジャンは吐き捨てるように言った。
「それじゃあ話を終わりだ・・・」
そして冷たい目で私を見ると、さっと部屋から出ていってしまった。
「なんでこうなるの・・・」
私は誰もいない部屋でもう一度、床を足で叩きつけた。
ドン!!!
やはりこの癖は止められそうにない。