自作小説【魔王がなかなか倒れない】
自作小説【魔王がなかなか倒れない】
「これで終わりだ。」
勇者の前で魔王は膝をついた。
「くっ・・・勇者め・・・まさかこれほどまでとは・・・」
魔王は頭から血を滴らせながら悔しそうに勇者を睨みつけた。
「魔王よ・・・この一撃でお前を倒す。世界に平和を取り戻す!」
勇者は剣を両手で高く振り上げた。
「ブレイブ・サンダー!!!!」
次の瞬間、剣から稲妻が走り魔王の体を激しい雷光が包み込んだ。
「グアァァァァ!!!!!」
魔王は死の断末魔を上げ、のたうち回った。
それは世界の平和を告げる瞬間だった。
「さらばだ・・・魔王よ。」
勇者が剣を降ろした瞬間、魔王を包み込んでいた雷光が消え、辺りを一瞬の静寂が包み込んだ。
「ふぅ・・・これで終わったんだな・・・」
ボロボロになった建物の天井から光が勇者に差し込んだ。
全てが終わった・・・と勇者が思ったその時!
「勇者よ・・・」
聞いたことのある低い声が聞こえ、勇者は正面に向き直った。
そこには体から煙を放ちながら、苦しそうに立ち上がる魔王の姿があった。
「ま、魔王!!くそっ・・・生きていたか!!!」
勇者は再び、剣を高く振り上げた。
「ブレイブ・サンダー!!!」
そして勇者の剣から一直線に雷が放たれ、魔王の体を包み込んだ。
「グガァァァァ!!!!!」
魔王が再び叫び、雷光の中で苦しそうに動き回った。
そして勇者が剣を降ろすと、雷光は消え、魔王は地面にバタッと倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・やっと倒したか・・・」
勇者は剣を鞘に納め、その場に座り込んだ。
天井からは相変わらず太陽の光がさしている。
「これで終わったんだな・・・」
はるか上空に輝く太陽を見つめ勇者は微笑んだ。
ついにこの世界に平和が訪れた・・・彼がそう思った瞬間。
目の前で倒れているはずの魔王が、ゆっくりと体を起こし始めた。
「勇者よ・・・・お前・・・」
「くっ・・・まだ動けるのか!?ちっ・・・」
勇者はバッと立ち上がり、鞘から剣を抜いた。
そしてそれを高く頭上に上げると、呪文を叫んだ。
「ブレイブ・サンダー!!!」
瞬間、剣から放たれた雷光が魔王を包み込んだ。
「グガギギァァァァ!!!!!!!!」
魔王の叫び声が辺りに響き渡り、そのおぞましい姿に似合わず静かに魔王は地面に倒れた。
勇者がそっと剣を降ろすと、魔王を包んでいた雷光が消えた。
「終わった・・・よな?」
勇者は注意深く魔王の体を見つめた。
プスプスと音を立てながら、魔王の体からは煙が立ち上っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・もう起きてくるなよ魔王・・・」
勇者が剣を地面に突き刺し、何とか体を支えた。
肉体的疲労というより、安堵感からの急な緊張感を短期間で味わい、精神的に疲れている気がした。
「まあ、あれを三回もくらったんだ・・・さすがにもう・・・」
勇者が安堵しかけたその時だった。
「勇者よ・・・」
魔王が手を地面につき、フラフラと立ち上がった。
「お前の攻撃は効かん・・・いい加減・・・」
「ブレイブ・サンダー!!!!」
勇者はすかさず雷光で魔王を攻撃した。
雷の強い光が魔王の体を包み込み、魔王は叫び声を上げた。
「グアァァァ!!!!勇者よ!!!!貴様は・・・」
そこまで言うと、力尽きたように魔王は地面に再び倒れた。
勇者も剣を降ろし、雷光を消した。
「これで終わりだろ・・・はぁ・・・魔王・・・」
息を切らしながら、勇者は片膝を地面についた。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
ゆっくりと深呼吸をして、息を整える。
そして目の前でうつ伏せに倒れている魔王の姿を見た。
「死んだか・・・」
程なくしても動く気配の無い魔王の姿に、勇者は心の底から安堵感を覚えた。
「終わった・・・これで・・・」
勇者が天を見上げ呟いた、その時だった。
「勇者よ・・・」
もう何回も聞いているような気がする低い声が、勇者の耳を突き抜けた。