自作小説【省エネ田中君】
自作小説【省エネ田中君】
省エネに生きる。
人生はこれに尽きると俺は思う。
怒りや悲しみ、そんな感情はとっぱらって生きる。
それは一見つまらないように見えるかもしれないが、とても平和で楽な生き方だ。
もちろん恋愛も取り除く。
誰かと付き合いでもした日には飛び上がるほど嬉しいだろうが、浮気されれば悲しいし、自分が浮気をしてしまえば命まで危うい。
もちろん付き合ってそのまま死ぬまで一緒ということもあるかもしれない。
だが、ずっと一緒にいるのもそれはそれでかなりストレスになると思う。
つまり俺には恋愛なんて必要ない。
だが・・・
「田中君・・・ずっと好きでした!付き合ってください!」
こうして直に告白されてみると、少し気持ちが揺らいでしまいそうになる。
悪魔のささやきが聞こえると漫画ではよくあるが、本当に今にも聞こえてきそうだ。
くそっ・・・省エネに生きると決めた以上は恋愛など御法度。
無期懲役に当たるほどの重罪だ。
せめて告白してきたのが知らない人だったら良かったのに・・・
そうすれば、「まだよく知らないから・・・」などと言って素直に断れたものを。
それなのになんで・・・なんで・・・幼馴染の柏木なんだ・・・
「田中君・・・だめ?」
見るな!俺を見るな・・・
ていうか小学校から一緒なのに、何で苗字呼びなんだ・・・いや、俺もか。
だが、どうする。
もし俺が柏木を振れば、この先関係が悪化することは言うまでもない。
その悪化した状態で高校生活を終え、その先に何が待っている?
俺には見える。
家を出た時に柏木とばったり会って、気まずそうに会釈をする自分が・・・
それはまずい。あの気持ち悪い何とも言えない空気を背負いながら家を出たくない。
くっ・・・ならここは付き合っておいて・・・いや、そもそも付き合うなどという選択肢は無い!甘ったれるな俺!
「田中君・・・返事は?」
柏木を待たせるのもそろそろ限界か・・・
くそっ・・・ひとまず考える時間がほしい。
返事はまた今度しよう。
「柏木・・・ちょっと考えたいから、返事はまた今度でいい?」
「え?・・・分かった。」
さて・・・どうする?