自作小説【猫】
自作小説【猫】
「はい、ニャーゴロ。ご飯よ!」
飼い主のカオリがキャットフードの入ったお皿を俺の目の前に置いた。
今日もこれか……たまには”ステーキ”や”すし”も食べてみたいものだ。
「どう、おいしい?」
『にゃー!』
「そうか。そうか」
ふん。どうせ俺の言葉など分からないくせに……
そうだ!たまにはいたずらをしてやろう。
『にゃーにゃー!にゃにゃあ!!!』
「え?急にどうしたの?」
くくっ……こいつ分かってないな。
人間の中で一番最低だといわれる言葉を言ってやったのに、ケロッとしてやがる。
「あ、もしかして餌足りなかった?」
『にゃあにゃあ!』
違う違う!食い物はもう十分だ!
俺は空になった皿を前足で蹴飛ばした。
「ちょっと!何やってるの!」
カオリが俺を睨みつけ、皿を俺の前に戻す。
「ニャーゴロ!そんなことしちゃだめでしょ!」
う……なんでそんなに怒るんだ?
人間は全く分からない。
「まったく……いつからこんなに荒っぽくなったのかしら……」
カオリが俺を哀れむような目で見ている。
これは猫の俺でもさすがに分かる。カオリは今、俺をバカにしている。
『にゃーにゃにゃー!!!』
「お、怒ったな!ニャーゴロ!」
なるほど、どうやら怒りの感情は種族が違えど分かるようだな。
『にゃーにゃー!』
「えーと……私も怒ってるぞ!」
『にゃーにゃにゃ!!にゃ!!』
「は?うーんと……私の方が……強いぞ?」
こいつ……俺と会話でもしてるつもりなのか?
さっきから全然話がかみ合ってない。
「うーん……もう疲れた!やっぱり猫と会話なんて出来ないのか。人間の言葉なんか分からないよね?」
すまんが分かる。
とても分かる。
「まあいいや……じゃあ仕事行ってくるね。ニャーゴロ!」
その言葉を最後に……カオリが帰ってくることはなかった。
俺たちの部屋にずかずかと入ってきた”警察”とかいう人間が言うにはカオリは車と衝突したらしい。
すぐ病院に連れていかれたが、助からなかったそうだ。
なんて弱い生き物なんだ、人間は。
カオリ……もしお前が猫だったなら車なんか避けてるだろう。
もし俺が人間だったら、お前を守ってやれたのに……
なんで……。
お前が猫で……俺が人間じゃなかったんだ。
こんなことになるのなら……もっとましな言葉を言っておくべきだった。
好きだと……そう伝えれば良かった。
***
あれから何年か経って、俺は死んだ。
死ぬのは意外とあっさりとしていて、あの日食べたキャットフードみたいだった。
もし次に生まれ変わるなら人間がいい。
そうすればきっと好きな人を守れる。
カオリ……お前を守れる。
じゃあな。
来世でまた会おう。